【VR】「Half-Life: Alyx」レビュー。良いところとイマイチなところ。
ついに買ってしまいました、Oculus Quest。我が家もVR時代に突入です。それこそ2、3年前から欲しい欲しいと思ってはいたものの、動機は漠然と
「VRやってみたい——」、これといった希望があるわけでもないのに
「なんか楽しいゲームありそう——」
残念ながらそんなふわっとした目的に大金を出せるほど裕福な暮らしは出来ておらず…… そうこうしているうちに次々と新しい機種が発売され、Oculus Go、Questといったセンサー設置不要のお手軽インサイドアウト方式も登場し、高価な上にどの機種を買っていいかもわからないと、完全に購入するタイミングを逸《いっ》しました。
ところが2019年暮れ、『Half-Life《ハーフライフ》: Alyx《アリックス》』のトレイラーを観てVR欲しい熱が再燃します🔥
Half-Lifeシリーズは未プレイ、名前ぐらいは聞いたことがある程度でしたが、そのトレイラーはナラティブ重視FPS大好きっ子の自分にはめちゃくちゃ刺さりました。同時にVRゲームのすごさを垣間見せてくれる素晴らしいものでした。
両手を使ってハンドガンのマガジンを文字通り装填するリロードアクション、棚にある雑多なものを手で払い除け、その奥に隠されているアイテムを拾う仕草。いずれもVRゲームでは珍しくないアクションでしょう。しかしそれが普通にAAAクラスのハイクオリティなゲーム内で起こっているという事が重要でした。
時は経って発売が迫った2020年3月。 「これが…… ぶいあーるのちから……」と息を呑むほどの操作性が詰まった本格的なゲームプレイトレイラーが次々と公開されます。
個人的に一番衝撃的だったのはValveの発売日のツイート。椅子を盾にして、飛びかかってきた敵を往《い》なして部屋の外へ追い出すたった3秒の映像です。
しかし、よく見て下さい。そこら辺に転がっていそうなオフィスチェアを盾にしているだけでなく、飛んできた敵の勢いを利用し、上手いこと窓の方へ誘導している…… 普段FPSやアクションゲームを嗜《たしな》む方こそ、この何の変哲もない一連の動作がどれほど革新的かおわかりいただけるはず。そう、何の変哲もない動作が普通にゲーム内で出来ている。これはもう現実なのでは…… 漠然とした想いは確信に変わります。
「ビデオカードを新調しVRを買う時だ」
ネタバレなしざっくり感想
疲れました。実際にハーフライフの世界を旅した疲れです。旅行に行ったあとの心地よい疲れがゲームで体験できる日が来たのです。
僕は昨日まで、文字通りこの身体で、銃を片手にCity 17の隔離地区を冒険していました。
有り体に言ってしまえばよくあるストーリー重視型のアドベンチャーゲームです。オープンワールドじゃないやつ。『The Last of Us《ラスト・オブ・アス》 (2013)』とか『アンチャーテッド』とか…… 胞子状のエイリアンに汚染された街は前者のイメージにかなり近いですが、もっとSFよりな感じ。
物語のジャンルは近未来SF、エイリアンもの。地球は既に異星人に制圧されていて、主人公はレジスタンスということで、『地球が静止する日 (2008)』『宇宙戦争 (2005)』『スカイライン -征服- (2010)』『世界侵略: ロサンゼルス決戦 (2011)』などなど、大なり小なり違いはありこそすれ映画ではわりとよくある宇宙人との対決ものです。
クリーチャーのデザインは全体的には有機的なタイプですが、エイリアンのフェイスハガーをちょっと可愛くした
『ヘッドクラブ』、宇宙戦争のトライポッドのような
『ストライダー』、ラスト・オブ・アスのクリッカーのように胞子に寄生された人間
『ジェフ』、スターシップ・トゥルーパーズのバグの如き
『アントライオン』などなど、ごった煮感があって楽しかったです。
ストーリーはタイトルにも冠されている主人公アリックス(ゲーム中は手しか見えないですけど……)が、レジスタンス仲間と協力し地球を支配するエイリアンに一泡吹かせてやろうと奮闘する話。【エイリアンの秘密兵器を逆に利用してやれ大作戦】の様子が、ゲームの世界では一日程度の尺《しゃく》で描かれます。
ハーフライフシリーズの作品の一つであり、一作目の発売は22年も前という歴史あるシリーズ。主にPCで展開し、ハーフライフユニバースにはあの有名なパズルゲームである『ポータル』シリーズも含まれます。筆者はいずれも未プレイ。しかしながらゲームのストーリーはがっつりシリーズ作品の知識を前提としており、特にエンディングは
「……どゆこと? だいたいお前誰なん?」で終わってしまいます。アンチャーテッドのように単体での物語も考慮した作品に比べると、不親切なのは否めません。
とまあ、ゲームのジャンル※や全体的なテイストは正直、今日日《きょうび》どこにでもありそうなもの。ストーリーもシリーズのプレイを前提とした中途半端なものです。しかしそのゲームプレイは恐ろしく革新的で、今後数十年、ゲーム史の教科書に載ることは間違いない作品でした。
- ただ、このよくあるナラティブ重視FPSというジャンルを作ったのは他でもないこのハーフライフの一作目であったりするらしく、たいへん興味深いです。
それはやはりこのゲームがVRのためだけに作られている事はもちろんですが、それだけで終わらず、一流クラスのグラフィック、レベルデザイン、サウンドなどが当たり前にしっかりと詰め込まれている点が大きいと感じました。ファミコンからスタートしたゲームが、ここまで体感できるようになった時代に素直に感謝したいです。今後は全てのナラティブ重視FPSはVRで作るべきなのでは? とすら思ってしまいました。
ちょっと前にPCのFPSアドベンチャーゲームである『SOMA (2015)』をプレイしたんですが、もしあれがHalf-Life: Alyxのような完全VRタイトルだったとしたら。一人称視点であることを最大限に生かしたナラティヴ、そして視界を覆うおどろおどろしい海底基地。感情移入の度合いが段違いだったのではないでしょうか。
以後のスクリーンショットは可能な限り交差法で立体視できるようにしたので、是非やってみてね! 立体視すると街の奥行きがリアルになり、字幕は空中に飛び出ると思いますが、ゲーム本編での立体感はこんなもんじゃなく、なおかつそれが360度どこを向いても立体なのです! もはや現実!
あと、できるだけネタバレは無いよう書きましたが、大まかには触れているのでこれからプレイするつもりの方は読まずに先に遊んじゃって下さい!
⭕良いところ
💯プレイヤーを引き込む丁寧な演出🎬
VRだからといってホラー要素一点張りのような単調なゲームではありません。暗い地下の探索に疲れた頃にいい塩梅《あんばい》で登場する開放的な屋外マップ、空の色で見せる時間の経過など、プレイヤーを飽きさせないような演出で、緩急のバランスも計算し尽くされています。
そもそも冒頭のシーンからプレイヤーをゲーム世界に引きずり込む演出がとっても上手《じょうず》。街を一望できる開放的なバルコニーからスタートすることで、これから始まる物語の広がりを感じさせると同時に、遠方に見える巨大な建造物や空を舞う偵察機から街が“支配”されていることを印象付けます。
街を歩くと、我が物顔で闊歩する3本足の巨大兵器ストライダーにあわや踏みつけられそうになります。画面を覆い尽くすほどの巨大なメカは単純にプレイヤーのテンションを上げると同時に、異星人がこの街に住むちっぽけな人々の存在など少しも気にもかけていないことがわかります。
ゲームの操作に慣れてきた頃には、遂に隔離地区を隔てる巨大な壁に到達します。出入りすることなど一切考慮されていないであろう重厚な封印。物々しい轟音とともに扉が開くと、内部には菌類のような未知の寄生体が異常繁殖しています。これから冒険する世界に向けてプレイヤーの期待と不安はマックスです。
グラビティグローブを開発し、それらに自分の名前を付けちゃうお茶目なラッセル。触ろうとすると「やーめーろーよぉー」って仕草をするのがとってもキュートなおじいちゃん。ゲーム中のラッセルとアリックスの会話も実に丁寧に練られていて、会話を楽しませつつ、それとなくゲームのガイドやヒントを与えてくれます。
💯存在しないかのようなUI💻
ゲームへの没入感を増すため、キャラクターのステータスなどのHUD《ヘッドアップ・ディスプレイ》は最小限にする事が主流となり久しいですが、このゲームはなんと言ってもVR。それをさらに推し進めた形でHUDは基本的に表示されません。主人公の体力や残弾数は手に装着した小粋なガジェットのディスプレイに表示されます。ドットの荒い液晶表示と砲弾型LEDはUIとしての機能を十分に備えつつ、ゲームの世界観にもぴったりで、ついつい何度も見たくなってしまいます。
ただし、VRを装着していないPC側の表示(プレイヤーは基本的に見ることがない画面)にはちゃんとHUDで体力などが表示されていて、これは配信、いわゆる“ゲーム実況”に対応しているようです。さすが今どきのゲーム、抜かり無いです。
もちろん 〈調べる〉とか 〈ボタンを押す〉みたいなコマンドメニューも無く、気になるものは文字通り手に持って調べ、スイッチなどのボタンは自分の指で押す必要があります。ちなみに、音声は英語ですがUIや字幕は完全日本語対応。字幕は視点に固定されて表示されるので、どこを向いていてもしっかりと読むことが出来ます。話者によって色分けもされていてわかりやすい。安心。
UIの話からは少しずれますが、ゲーム中はムービーパートやカットシーンといったものも一切ありません。ムービー的なシーンでも徹底的に一人称視点にこだわっていて、まさに主人公になりきって物語を体感できます。上の画像は主人公がコンバイン兵と鉢合わせしてしまうシーン。銃を突きつけられますが、VRを生かしてプレイヤーが実際に“手を上げる”こともできます。必死に手を振って無実をアピールしてみたり、演技《ロールプレイ》が捗《はかど》ります。
💯VRのディファクアトスタンダードになるであろう自然なUX🤲
手に入れた弾薬は 〈背中越しに離す〉という極めて自然な動作でバックパックに収納できます。インベントリ画面のようなものもなく、取り出すにはどうするのかと思ったら、入手時とは逆に背中から掴みだすことで所持武器に合わせた弾薬が出てきます。プレイヤーのやりたいことを無理なく現実的な仕草で実現したUXに関心しきり。
回復アイテムとグレネードは左右の腕にひとつずつポケットがあるので、手首を見れば持っているアイテムもすぐに確認可能。さっと取り出して使用できます。VRだからこそ実現出来る動作の中に、ゲームに必要なアクションをいかに落とし込むかというセンスが凄いんです。
ポケットに入り切らないアイテムはどうやって運ぶの? 手で持って運ぶんだよ! 他にも、戦闘中に遮蔽物に隠れるボタンは…… 「あ、隠れるように自分が体を動かせばいいのか」など、 「確かに現実ならそうだよな」と、自分がいかに“普通の”ゲーム操作に染まっているのかと気付かされる事が度々あって、とても新鮮でした。
個人的にすごく好きなのが梯子《はしご》の登り方。現実で登る時と同じように、左右の手で交互に掴んで登っていきます。もちろんVRだから重みのフィードバックはないんですけど、本当に梯子登ってるみたいでチョー楽しい!
入手したアイテムを 〈調べる〉ことで、スティックを使ってグリグリ回転させ、隠されたヒントを見つけるといったようなシステムは『バイオハザード』を始め多くのアドベンチャーゲームに採用されています。それがVRになるとどうなるのか。プレイヤー自らの手で掴み、プレイヤー自らの手首を捻って回転させ、逆さまにしてみたり、裏側を確認したり。そして何もないとわかればポイッとその辺に放り投げてみたり。もはや“自然な操作”といった次元の話ではなく、自然な行動そのものになってしまいます。
回復アイテムとなる注射器。シリンジ上部をカチッと押して針を出したら、腕に打つことで使用できます。もっとも手しか表示されていないので、手首の静脈がある辺りに持ってくるだけなのですが、確かなサウンドのフィードバックでしっかりと自分の腕に打ったような気分にさせてくれます。思わず 「こいつぁ効くぜ……!」などと悪ぶってみたくなってしまいます。
💯VRを生かした謎解き🔍
バイオハザード然《しか》り、この手のアドベンチャーゲームでは随所に謎解きという名の“ちょっとしたパズル”が付き物ですね。ライツアウトだったり、配管ゲームだったり、形合わせだったり。Half-Life: Alyxでもパズルは健在なのですが、いずれもVRの特徴である三次元を最大限に生かしたパズルになっています。
「球から放射する線がすべてのターゲットを通る空間上の位置」を探し出す、これぞ3次元といったパズル。後半は球が増えて難しくなりますが、失敗はないのでじっくり考えることができます。筆者はこのパズルが一番好き。
こちらは球面にある鍵と錠前を、赤い障害物を避けながら同じ位置に移動させるパズル…… と言うよりは避けゲーのようなミニゲームです。失敗するとやり直しになってしまうので、地味に一番面倒くさくて嫌いです😑
💯メカ好きにはたまらないガジェットデザイン📻
グラビティグローブ“ラッセルズ”を初めて入手するシーン、よく見るとグローブの格納されている装置は電子レンジであることが分かります(ちゃんとチーン♪って出てくる)。物資に乏しいレジスタンスがあらゆるものを駆使して戦っている様子が伺えます。映画とかでもよく見ますが、こうゆうローテクだけどハイテクな技術って何て言うんだろ。
デフラグしてるー! CRTモニタでいかにも“オールドテク”なレジスタンスですが、これでグラビティグローブだって作っちゃうし、ラッセルの話によると戦争によってインターネットが消滅する前に「全インターネットをダウンロードした」とのこと。僕のブログも彼のPCに保存されているのかも。やるなラッセル。
ちなみに、ハーフライフの世界でこの作品の出来事は2010年頃。10年前じゃん…… 『バック・トゥ・ザ・フューチャー (1985)』もそうですが、たいていのSF、みんな現実より昔になっちゃいましたね(ハーフライフも一作目は1998年)。昔からSF作品見慣れてると2020年なんて相当未来な感じするけど、いまだに車が空飛んでないの納得いかないですね……😑
Timeline of the Half-Life universe | Half-Life Wiki | Fandom
https://half-life.fandom.com/wiki/Timeline_of_the_Half-Life_universe
武器は拳銃、ショットガン、ライフルの3種類。数は少ないですが、レーザーサイトや拡張マガジンなどそれぞれ4箇所ほどアップグレード可能。武器の外観にもユニークな改良パーツが取り付けられていくため、一つ一つのデザインが濃く、全く飽きません。発射機構や装填機構もしっかりとデザインされていて、アップグレードの度にまじまじと見つめてしまいます。
M1911似の拳銃はリロード時にちゃんとスライドを引いて最初の弾をチェンバーに送る必要があって、戦闘中だと
「あ、あれ、弾が出ない!」みたく結構焦ります。映画で
“ヒロインが銃に弾を込めようとするも手が震えて落としてしまう”なんてのはよくあるシーンですが、まさか自分で体験する日が来るとは思いませんでした(笑)。
アリックスが偵察活動の拠点としていたであろう一室。ゲーム中ではただ通過する部屋に過ぎませんが、特定の施設を撮影するように設置された窓際のビデオカメラ、ホワイトボードにびっしりと書き込まれた情報、外部の監視映像、そして大量の非常食や寝袋など、作り込まれたディティールで彼女が行っていたであろう監視活動が容易に想像できます。個々のガジェットのデザインはもちろん、こうした舞台のデザインも優れています。
😆どこか愛嬌のあるクリーチャー👾
実物大のゾンビや死体がその辺にごろごろ転がってるし、ヘッドクラブの口はエグいし、回復アイテムは30cmはありそうな巨大な幼虫だし、普通の人がVRで体験するにはちょっとエグすぎる世界だと思うんです。その罪滅ぼしなのかバランスとってるつもりなのか、ちょいちょいクリーチャーが“弱さ”見せてくるんですよ。
- 瓶詰めされ身動きも取れずに、ただプレイヤーの体力を回復させるためだけに何匹も何匹も押し潰される幼虫。
- 口は完全にエイリアンのそれなのに、外側はなんだか餅みたいに丸っこく、ちょこちょこ歩く姿が可愛いヘッドクラブ。
- 触手を垂らして待ち構えるも、毎回プレイヤーに可燃タンクを掴まされ、せっせと口に運んで爆散するバーナクル。
- 電撃と素早い動きで散々苦しめてきたくせに、弱ると足を引きずりながらプレイヤーから逃げ、止めを刺すことを躊躇《ちゅうちょ》させるライトニングドッグ。
気持ち悪いだけじゃない、 「えっ…… 可愛い😳」と萌えてしまうようなクリーチャーデザイン、シリーズ伝統だったりするんでしょうか?
主人公の体力はこのライフステーションで回復できるんですが、そのためにはプレイヤーがレバーを下げる必要があります。するとこの哀れな幼虫はか細い鳴き声をあげながら押し潰され、体液を抽出されてしまいます。クリアするまでに何匹の幼虫を犠牲にすればいいのか…… 「ちょっと減ってるけど、今回はやめておこう」と回復を見送った方も多いのではないでしょうか。アントライオンの幼虫とは言え、可哀想😢
バーナクルは触手に触れたものはなんでも食べちゃうので、ヘッドクラブも食べちゃいます。それまで主人公に寄生しようと勢いよく飛びかかってきたヘッドクラブが、触手に掴まれた途端すべてを悟ったかのように足すら動かさなくなるの、可愛い。
敵同士のくせにバカじゃんとプレイヤーを微笑ませてくれると同時に、[バーナクルを利用してヘッドクラブを退治することができる]というヒントにもなっています。これぞ暗黙のチュートリアル。
“バーナクルの餌”こと可燃タンク。ところで、筆者はこういった[赤いものは爆発する]というようなゲーム的文法が大好きです。CGがリアルになればなるほど、ただのプロップとゲーム的に意味があるオブジェクトの区別が付かなくなるわけですが、ゲームの世界ではプレイヤーが暗に気付くよう、様々な工夫が施されています。このゲームでも、[入手できるアイテムは光っている][インタラクトできるハンドルは赤]など、プレイヤーがそれとなく気付いて学べるよう徹底されていました。
このゲームではこうした文法を踏まえたレベルデザインも丁寧で、バーナクルと可燃タンクをセットで配置して殺し方を自習させる、アーマーヘッドクラブはまず金網越しに登場させ弱点に気づかせる、音に反応するジェフのシーンでは対峙する前に安全地帯から動きを観察できるようにする…… などなど。遊びやすさへの工夫がそれとは気付かないよう随所に盛り込まれているおかげで、プレイヤーはストレス無くゲームを楽しむ事ができるんですねぇ。はーこれだからゲーム文法は楽しい♪
💯十分過ぎるボリューム
クリア時間はSteamの表示で25時間程でした。初見プレイ、かつありとあらゆる引き出しとロッカーを入念に調べながらのプレイですので、普通はもっと短く済むのではないでしょうか。この手のゲームとしては標準的です。VRだからといってボリューム不足という事は一切ないし、コントローラーでプレイするゲームよりは肉体的にも精神的にも疲れるのは間違いないので、これ以上長かったら死んでしまいそうです。
VRゲームと言うと、Wiiが流行った時に多くあったような、体を動かすことを前提とした比較的短いゲームという印象があったんですが、今作は完全にフルプライス、フルボリュームの作品です。
ゲーム中に見つけることが出来る誰かの隠れ家。配置されているそれぞれのオブジェクトが生活感に溢れていて、確かにここにレジスタンスが潜んでいた証を感じさせます。全てのレベルデザインにしっかりとバックストーリーが感じられ、いちいち隅々まで見て回りたくなってしまうので、クリア時間以上のボリュームが感じられます。
😱フェアな恐怖
ゾンビ的なクリーチャーに加え、真っ暗な廊下を心もとない懐中電灯で歩くシチュエーションなど、十二分にSFホラーと呼べるゲームですが、安易な脅かし、いわゆるジャンプスケアは極めて少なかったです。それよりも、本当の暗闇を小さなライトだけで歩かなければいけないというだけの怖さや、音を立てれば見つかるというような、心理的にじわじわと追い込んでくる本当の恐怖が体験できました。VRなので、後ろから急に脅かすなどいくらでもできそうなのに敢えてしないところ、特にユーザビリティも考え、ゲーム中わざわざ後ろを向かなければいけなくなるシチュエーションはほとんど無く、フェアな設計に交換が持てます。
そもそも冒頭からして、初めてゾンビ化した死体を見つけるよりも先に、仲間の登場、武器の入手を済ませることで[お前はひとりじゃない]としっかり安心させてくれているのです。それとは気づかせない演出によって、プレイヤーは安心して恐怖に身を委ねることができるようになっています。
真っ暗なエリアを探索しなければならないシーンではもうガチで暗闇な上にフラッシュライトの照らす範囲がまた小さいこと小さいこと。何も出てこなくても十分怖いです。
😖『クワイエット・プレイス』を体感できる「ジェフ」
フェアな恐怖を体現するのがこのジェフです。胞子に寄生された人間で、音に反応する……
「それなんてクリッカー?」と言いたいところですが、こちらのジェフはイベントボス扱いで無敵。目は見えないので、音を立てなければ絶対に見つからず安全です。それなのに本当に恐ろしい。等身大で目の前に迫ってくせいもありますが、初めて殺された時は完全に身が竦《すく》んでしまいました。かなり長い時間付きまとわれるので、何度心折れそうになったかわかりません。しかも、めちゃくちゃ嫌らしい事にジェフが登場する場所が酒造所なんですよね。そこら中に酒瓶が…… もちろん落とすと割れる。ジェフが来る! 『震える舌』かよと……😅
音を立てれば殺される、『ドント・ブリーズ (2016)』や『クワイエット・プレイス (2018)』の主人公になりきる事ができますが、マジで精神に来るチャプターです。できればもう二度とやりたくない、本当に怖かった(面白かった)。
比較的序盤から登場するガスマスク。ジェフが登場するシーンのための伏線だったんですね。主人公は毒の霧で咳き込んでしまいますが、当然音でジェフに見つかってしまいます。咳の音は手で口を抑えていれば防げますが、ガスマスクを装着すれば両手が空くので探索、戦闘がかなり楽になります。それにしても、「両手が空くから有利」って理由、もはやゲームではなく現実の攻略法ですよね…… VRしゅごい。
🧐宝探しの楽しさ
RPGよろしく、アイテム探索の楽しみもあるのですが、その方法はあちこちの壁に向かって調べるボタン連打…… ではなく、プレイヤー自らの手でロッカーを開き、引き出しを空けて中を確認する必要があります。幼少期の宝探しゲームを本当にやってるみたい。このシステムで証拠を探すような犯罪捜査系のゲームあったらチョー楽しいでしょうね(もうあるのかな?)。
武器をアップグレードするために必要になるアイテム“合成樹脂《レジン》”。かなりの数が必要になるので、ゲーム中はこれを求めて机の上を文字通りひっくり返して探すことになります。嫌らしい隠され方はしてないし、ありそうなところには大体あるので終始ウキウキで探せます。
また、意味のあるアイテムは全て光っているので、遠目でも見逃すことは有りません。ユーザビリティも完璧です。
ゲーム冒頭、ロッカーの中に隠しボタンを見つけるシーン。ラッセルズの隠れる部屋へのスイッチなのですが、自分の手でロッカーを開け、自分の手でスイッチを押すと開く隠し扉に興奮もひとしお。
❌イマイチなところ
もちろん、気になるところもゼロではなく。あまりに出来が良すぎるのであら探ししてるみたいではあるんですけど、いくつか。
🤔完全にシリーズありきのストーリー
- とにかくなんか地球は宇宙人に占拠されてしまってるらしい
- 主人公はレジスタンスらしい
- 宇宙人の謎の兵器を逆に利用してギャフンと言わせてやる作戦だ
ハーフライフについて全く知らなくても、これぐらいの目的は把握できるようにはなっています。2020年のタイトルとして普通に美しいグラフィックで構築された世界は、意味なんかわからなくても十分に魅了されます。
しかしながら、ゲームが進むにつれ増える固有名詞、主人公を含めた全てのキャラクターが共有する過去の(シリーズで起きた)出来事、ラストで急に初登場する人物(過去シリーズでは重要人物)、そして前作のエンディング視聴を前提としたポストクレジットシーンなど、全体としての作りは清々《すがすが》しいほど一貫して
“一見さんお断り”です。
アンチャーテッドのような[どの作品からプレイしても作品内の出来事は完結し、過去シリーズをプレイ済みであればより人物の関係性を楽しめる]といった親切な語りを期待すると、完全に置いてけぼりをくらいます。
それでも細部まで綿密にデザインされた世界観を感じるオブジェクト、会話で断片的に小出しされる知識、印象的なクリーチャーのデザイン、そしてタイムスリップを彷彿とさせるラストシーンなど、オタク心をくすぐる方法は完全に心得てますね。こういったSFに抵抗がない方であれば、クリア後すぐに過去シリーズ作品を調べ、実際にプレイするか、プレイ動画を漁ってストーリーと世界観を把握しようと躍起になっていることでしょう。少なくとも筆者はそうでした😅
😅それでもやっぱりエグいプロップ
コントロールパネルの鍵として度々《たびたび》登場する謎の有機体。脳のような臓器に直接歯が生えている……? そしてよく見るとネズミが一緒に閉じ込められてる! しかも死んでるはずなのに、明らかに身体が脈を打っています。『銃夢』のノヴァ教授の実験みたいなものを 「気持ち悪い…… けど、見たい!」ってなる人には大変楽しいですが、こういう造形がガチで駄目な方だと難しいかもしれません。なにしろ実物大で目の前に存在しますしね……
異世界の菌類に汚染された屋内を冒険しなければならないシーンは多いです。筆者はトライポフォビア、集合物恐怖症(絶対に検索してはいけません!)なので、こういうフジツボ状の物体が集合したようなものは正直ちょっと辛いです(上記スクショで言うと、左側の壁のテクスチャとか、奥のあみあみとか、わりとヤバい)。本作はそれが実物大で迫ってくるので、動かなくてもなかなかの迫力でした…… まあ、ラスト・オブ・アスもそうだったし、『バイオハザード7 (2017)』もだと思うんですが、ゲームの世界では割とよくある表現なのでだいぶ見慣れましたけど…… こうして静止画でまじまじと見つめるのはまだ無理ですね……
言ってもまあ、ナウシカだって腐海はこういう世界観だし、大丈夫な人は全然大丈夫でしょう。
いつも思うんですが、このゲームに限らず、開発チームにはこういったモデリングとテクスチャを延々と作ってるアーティストさんが居るはずで、前世でどんな業をと邪推してしまいますが、もちろん仕事にしてるくらいだから平気なのでしょう。特に海外の方、遺伝的にトライポフォビアが少ないのではと推測しています。何の根拠もありません。
😑ロード中のコントローラー
ネオジオCDのローディングも過去の話、AAAタイトルにおいてプレイ開始からエンディングまで一切のローディングを挟まないのがデファクトスタンダードとなりつつありますが、今作ではしばしばローディング画面を挟みます。プレイ時間と比較しても極めて短い時間ですし、エンディングまでトータルでも回数は多くありません。プレイヤー自身の身体に緊張を要求されるVRとして考えれば、適度な休憩にもなります。
気になったのは、ロード中に何故かプレイヤーの手がVRコントローラーの表示に戻ってしまうこと。謎の菌類が繁殖する朽ちたホテルを探検していたはずが、現実で握っているコントローラーを見せられることで、
「あ、VRのゲームで遊んでるだけだった」と一気に現実に引き戻されてしまいます。没入感を大切にしているゲームが自らそれを破壊するのはいただけません。せめて設定画面で表示されるような半透明の手の表示にして欲しかったところ。
「僕の手にはラッセルズなんか無い。ただVRコントローラーを握っているだけだ」と嫌でも気付かされてしまうローディング画面。なんでこんなことするんや!
🥴視点のめり込み
VR対応のせいか、通常のFPSとは比較にならないほど簡単に主人公の頭(プレイヤー視点)が壁にめり込みます。よくあるFPSのバグのように、(表示は少しおかしくなるものの)壁の裏から外が見える仕様なら問題ないのですが、本作では上の写真のように、壁にめり込むと視界が謎の黄色で埋まって何も見えなくなり、あまつさえ音まで遮断されます。一人称視点のため主人公がどんな体勢でどこにめり込んだのか把握できず、一瞬にして方向感覚を失い焦ります。これが戦闘中に起こったりするともうパニック。
主人公の身体と周囲の当たり判定はValveも手探りで苦労したようで、移動システムの開発の話が公式チャンネルから配信されています。
まあ、この辺の不安定さはVRゲーム発展の過渡期ということで、今作のようなスタイルのVRゲームが増えていく中で、プレイヤーの視点を阻害しないような形に解消されていくことでしょう(もっとも、成熟した普通のFPSにおいてもグリッチは必ず存在してしまいますが)。
🙁机や箱に登っちゃうところ
このゲームでは箱、机など腰程度の高さであれば前進するだけでその上に登る仕様になっています。このため、目の前に置かれている宝箱(のように蝶貝が奥にある開き方の箱)を空けて中にあるアイテムを取り出したい時、下記のような状況に陥りがちです。
- 箱の手前で屈《かが》み、蓋を開ける。
- 中にあるアイテムを掴むには届かないので、少しだけ前に進む。
- 箱(の手前の縁)に登ってしまい、結果としてアイテムが足よりも下になって余計届かない。
このように、箱の中のものを(グラビティグローブを使わずに)掴むには、ちょっと届かないなあという場面。
前に進むと、このようにキャラクターが箱に登ってしまうため、アイテムが足よりも下になってやはり届かない(上のスクリーンショットでは、すでに両手ともぺったり(現実の)部屋の床につけている状態ですが、アイテムはそれより下に位置しています)。
もっとも、そのためにグラビティグローブのシステムがあり、そもそも箱の中のアイテムを拾うためにわざわざ屈む必要はありません。しかもオブジェクトを掴むための手の当たり判定は見た目よりかなり大きく、届かないように見えても割と掴むことができます。また箱の高さを利用した謎解きもあるので、登れるのは必須のシステムになっています。
それでもゲームの主人公になりきって
「さて、ここには何があるかな……」と[箱を漁《あさ》る]演技をしたい欲求ってあるじゃないですか。その時に現実ではありえない体勢になっているであろう主人公を想像し、ちょっとがっかりしてしまうのです。より現実に近いVRゲームだからこそ、[箱の縁に立っている]という現実ではありえない体勢が気になってしまうポイントでした。
関連して、手以外の自分の姿、腕や足が見えないことも、この世界に自分は存在しない感じがあってちょっとだけ気になりました。もちろんValveが開発中に考慮しなかったわけがないので、表示したバージョンも作ってみた上で、トラッキングできない部分と主人公の動きの乖離《かいり》による没入感の阻害、視界の邪魔になることを考慮した結果、手のひらのみの表示という判断になったのだと推察します。
箱に登れる仕様と前述の当たり判定に起因するグリッチを利用し、わずか40分弱で本編をクリアするスピードランもあります。箱を積み重ねて天井を突き抜けたり、投げたオブジェクトの上にタイミングよく乗ってショートカットしたり、やりたい放題で楽しそう。
🤯プレイヤーの技量に完全依存する「グレネード!」
FPSでグレネード・手榴弾・爆発する投擲武器と言ったら、長押しで親切丁寧にも軌道が表示され、指を離せば百発百中その通りに飛んでいくのが当たり前。しかしVRゲームではそうはいかない。銃を自分で構えて打つのなら、手榴弾だって自分で投げなければ!
そう、軌道なんかもちろん表示されないし、希望の場所に投げ込めるかはプレイヤー自身の腕にかかっているのです! 武器の持ち手が右手に固定※されている都合上、銃を撃ちながら左手でグレネードを投げることもあったのですが、利き手じゃない左手で投げたところであらぬ方向に飛んでくだけです。ゲームやっててこんなにも利き手を意識したのは初めてでした。わざわざ銃をしまって右手に持ち替えてから投げてみたり……
- 利き手は設定で変更できるので、左手で銃を持つ事もできます。いずれにしろ利き手に武器を持つので、戦闘中スピーディーにグレネードを投げるには利き手じゃない方の手で投げるしかありません。
投げることを利用した謎解きもあるので、例えば逆の手で投擲先をポイントできるようなアシストがあったらよかったなと思いつつ、それじゃあ甘すぎるよな、現実だって訓練しなきゃ利き手じゃない方で手榴弾なんか投げられないだろと、没入感を噛み締めて投擲していました。
😎VRであること
ゲームの本質の否定になってしまいますが、VRであること自体の弊害ももちろんありました。この手のゲームとしては標準的なクリア時間であろう15~20時間、ずっと立って遊ぶのは単純に疲れますし(座ってプレイすることも出来ますが、主人公の視点と高さがずれるため少し没入感が削がれます)、銃を構えたり隠れたり、事あるごとに自分の身体でアクションするのは大変です。心地よい疲れであり、その疲れこそが 「自分でこの世界を旅した!」証なのですが…… (筆者はロールプレイを意識し、アイテムの入手時にグラビティグローブを使わずできるだけ手を伸ばすようにしていたところ、何十、何百回と屈んだために腰をやっちまいました😇)
コントローラーすら持たない「ゲーム実況を見る」という文化が定着した時代に、わざわざ体感するVRがゲーム主流になることは、この先永遠に無いのかもしれないと少し暗い気持ちになります。日本の住宅事情もありますし、少なくとも『レディ・プレイヤー1 (2018)』のような未来は来なそう。
もちろんダラダラとお菓子を食べながら遊びたいゲームもあるし、実況を見るだけでいいかなとのめり込めないゲームもある。遊び方は人と作品それぞれ。でも願わくばAAAゲームの半分くらいがVR対応になって欲しい!
まとめ
というわけで、既にPCでVRを持っているのにこのゲームをプレイしないとか「え、何のためにVR持ってるんですかぁ?」とか煽りたくなっちゃうぐらいのマイルストーン的作品だし、VRやりたいけど高いしなぁと躊躇していた方はぜひこのゲームでVRの世界に飛び込んでその世界を体感して欲しいゲームでした。少なくとも僕は飛び込んで良かったです!
VRだからとにかく[遊ばないと意味がない]んです。実況で見たって何の意味もない。絶対に素晴らしい体験になることは保証できます。ただし虫嫌い、ホラーが極端に苦手な人は…… と注釈を入れなければならないのが本当に惜しい! VRのブレイクスルーであることは間違いない歴史的作品なのに、諸手《もろて》を挙げてお勧めできないのが本当に歯がゆい。
グラビティグローブを入手するところまではグロもホラーも一切ないので、少なくともそこまでは遊んでみて下さい。その後列車から降りると、上のスクショのようなゾンビ化した死体が一体だけあります。それを見て大丈夫そうなら行けるところまで進めてみて下さい。恐怖を克服するだけの価値はあると思います。
ところで、ゲーム起動時のValveロゴ、めちゃくちゃ怖いんですけど。フェードアウト際にゆっくりだけど確実にこっちに振り返ろうとしてるんですよ。後頭部にバルブが付いた謎のデブ、どんな顔なのか…… 見られたらどうなってしまうのか…… ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル
この記事はここで終わりです。
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