【感想】NETFLIX映画「ELI / イーライ」どんでん返しも楽しい、手堅くまとまったホラー
イーライといえば感動的で楽しい弁護士のドラマが有名ですが、こちらは雰囲気の180度異なるホラー映画です。同時期にNetflixに追加されたホラー『ワウンズ:呪われたメッセージ』が今ひとつだったため、特に期待せず鑑賞したのですが、非常によく出来た作品でした。レンタルビデオ屋というものが絶滅して久しいですが、[ジャケ借りした作品が意外に面白くて、作業を中断してじっくり見入ってしまう]を久しぶりに体験できました。これはかなりの当たり作品です。
もしホラー作品が好きなのであれば、とりあえず余計な情報を仕入れず、今すぐ観てしまいましょう。オススメです。
<strong class="pseudo">ELI / イーライ</strong> - Netflix
https://www.netflix.com/title/80206910
概要
2019年のNetflix映画。劇場公開予定だったけど、なんだかんだでネットフリックスに買われたみたいな感じらしいです。原題は「ELI」、邦題も「イーライ」。変にサブタイトルを付けてネタバレになるのも困るし、シンプルでいいと思います。監督さんはCiarán Foyという方で、『シニスター2 (2015)』や『ホーンティング・オブ・ヒルハウス』のエピソードなど、ホラーがメインのようですが、ブロックバスターとかは撮ってないみたい。奇遇にもごく最近シニスター2を見たのですが、いわゆる“パッとしない続編”で今ひとつでした。一方ホーンティング・オブ・ヒルハウスはシーズン2を製作中のようで楽しみです。
あらすじ
息子の病気を治すため、謎の医師による"奇跡の治療"に最後の望みを託す家族。だが、そこには恐ろしい秘密が隠されていた。ELI/イーライ
主人公は外気に触れるだけで全身にアレルギーが発症する難病に苦しむ少年とその両親。少年は自宅でも外気を遮断するビニールハウスの中でしか生活できず、外に出る時は『アウトブレイク (1995)』や『コンテイジョン (2011)』のような完全防護服に見を包まなければなりません。両親も治療法が見つからないことに精神的/経済的に苦しんでいますが、同様の症状の治療経験のあるウィルス遺伝子専門の医師を見つけ、一縷《いちる》の望みを託して家族で共に治療に向かいます。
人里離れたところにある治療施設は外観こそ古いお屋敷ですが、最新の除染設備を備えていて、内部では防護服を脱いで生活できます。久方ぶりに家族と直接抱き合うことが叶い、病気の治癒にも期待がかかります。しかし、そこはホラー映画。夜な夜な起こる心霊現象、医師の怪しい行動、近所の女の子が示唆する「前の子は——」というコテコテのセリフ。
果たして心霊現象は医師の言うように“治療の過程で脳にも影響が出ている”だけなのか。この施設で今まで治療された患者たちはどうなったのか。怪しい医師は本当に治療しているだけなのか、それとも他に目的が……? ホラー映画として実に様々な可能性を提示しつつ、どれが本当なのかをうまいことはぐらかしながらストーリーが進むため、視聴者としては観ている間中《あいだじゅう》ずっと 「こいつが怪しい」 「きっとこうだ」などと推理を巡らせることのできるストーリーになっています。
キャスト
主人公のお母さんはKelly《ケリー》 Reilly《ライリー》、ドラマ『トゥルー・ディテクティブ』のシーズン2を初め出演作は多く、この妖しいタレ目はめちゃくちゃ見覚えがある! のですがじゃあどの作品と言われるとパッと思い浮かびません。とりあえずダウニー版の『シャーロック・ホームズ』に二作とも登場し、ワトソンのお嫁さんになる人です。
お父さんも同様に 「見たことある!」って感じの俳優さんなのですが作品一覧を見てもパッと結びつかない感じのMax《マックス》 Martini《マーティーニ》。しっくり来たのは『パシフィック・リム (2013)』での親子パイロットのお父さんですね。
怪しい医師を演じるのはLili《リリー》 Taylor《テイラー》、これまた出演作の非常に多い女優さんですが、古くは『ホーンティング (1999)』これ映画館に見に行ったんですけど、に、二十年前だと…から最近は『死霊館《しりょうかん》 (2013)』『レザーフェイス (2017)』などに主演していて、ホラー作品に縁《えん》があるようです。
三人とも善玉/悪玉といった固定観念がなく、演技もうまい役者さんなので、本当に子供を治療しようとしているだけなのか、実は裏の魂胆があるのかという微妙な機微が実に怪しくて、どの人物にも気が置けず最後までハラハラします。実に良い配役という印象です。
主人公の子役は残念ながら知らないのですが、大人が誰も味方をしてくれない中、唯一主人公が気のおける友達として登場する女の子はSadie《セイディー》 Sink《シンク》、『ストレンジャー・シングス』のシーズン2から登場している勝ち気な女の子ことマックスです。
ネタバレなし感想
映画は主人公の男の子が病気を発症した時の夢から始まります。呼吸困難と全身の発疹で倒れもがき苦しむ男の子、目覚めるとそこはモーテルの中に置かれた小さなビニールハウス。お母さんともビニール越しにしか会話出来ず、直接触れることもできません。両親は宿代の支払いに苦しみながら、完全防護服の男の子と出発します。たむろしていたチンピラに絡まれて防護服の一部が破れてしまい、慌ててテープで補強しつつ車に乗り込み、最後の望みである治療施設に向かいます。
開始5分で家族の苦労が手にとるようにわかり、一気に感情移入してしまいます。その後に登場するのは実に怪しげな人里離れた治療施設、そして医師のおばちゃんと助手がこれまたどう見たって怪しい。視聴者に感情移入させたあとは登場人物への疑念を抱かせて先の展開へ興味をもたせることで、続きが気になる状態へ持っていくまでをものの10分でスムーズに見せていて、ああ上手だなあと感心しつつ、まんまと作り手の術中にハマってしまいます。
その後もダレることなく、様々に起こる超常現象のどれもが怪しく、二転三転する解釈でずっと先が気になって目が離せません。そしてオチがやっと読めた頃にはすっかり作品の虜なわけですが、大事なのはその後。どんでん返しにも無理がなく、確かにそうだったよなぁと十二分《じゅうにぶん》に納得できるものです。
映像も上品で作り物っぽさはなく、ホラー作品としてベタな展開やビジュアルも随所に用意され飽きさせません。そして登場人物の行動もわざとらしくはなく、それでいて誰《だれ》も彼《かれ》も怪しいので、主人公の男の子を含めて[誰も信用できない]状態がクライマックスまで維持されています。
また、オチを知れば 「そういうことだったのか」いう伏線なども丁寧に仕込まれていて、映画の完成度はとても高いと思いました。Netflixの評価は文句なく 〈いいね〉です。昔の5つ星評価なら遠慮なく星5つあげたい作品でした。
見てない人はダメー!!
ネタバレあり感想
いやぁ、サイコスリラー要素ありつつのオカルト的ホラーと見せかけて、こってこての悪魔ものとは。スッキリと謎解きが完了するラストは気持ちがいいですね。医師のおばちゃんが遂にストラを装備するシーンでは思わず唸《うな》ってしまいました。実はエクソシストだったお医者さんたちと信心深いお父さんがあまりに不憫ではありますが、悪魔が主人公の映画なので致し方なし。
キリスト的な悪魔祓いなんて『エクソシスト (1973)』を始めとして見慣れたものですが、それをマジメに医療、それも難病治療として行っていた、という視点は新鮮で良かったです。医療行為と称して実は実験台にしていたのだ、いや本当は悪魔祓いを行っていただけなのだという三段構えのオチも良く出来てるなあと思いました。
この手のストーリーでは孤独な主人公の唯一の味方になってくれるハズの女の子が実は巧妙にそそのかしていたというのも極めて悪魔のそれで、絶望感があって良いです。ただ男勝りな今風の女の子と見せかけて、悪魔の態度そのものだったわけですね。何気ない火を出す手品も実はヒントになっていて、実は本当に火を出しただけでしたっていうのも推理小説で言うところのフェアな伏線で好感が持てます。
フェアと言えば、大人たちが信用してくれないばっかりに「嘘つき!」と罵り、徐々に暴力的になるのも、あの状況なら自然な反応と見せかけて、実は悪魔だからというオチが付くわけです。すごい自然! 単純な脳みその僕は感心しきりです。
デイヴィッド・テナント演じる悪魔が可愛すぎるドラマ『グッド・オーメンズ (2019)』に以前ハマっていたのと、今も『グッド・プレイス (2016~)』を毎週視聴しているせいで、狡猾《こうかつ》で残忍という悪魔の本性を少し忘れていました。その意味ではこのイーライに登場する彼らは極めて本来の悪魔っぽくて怖いですね。そしてそれに立ち向かう聖職者たちが、傍《はた》から見ると逆に悪魔に見えてしまうというのも皮肉が効いていて良かったです。お父さんのキリスト教原理主義的な怖さも実は正しかったとか。母親がただただ無力で自分勝手だったために、悪魔にすっかりつけこまれてしまったのも、可哀想と同時にいい気味だなと溜飲が少し下がりました。この辺の微妙な塩梅は女優さんの上手さもあったような気がします。
さて、聖職者たちの努力虚しく、遂にサタンの息子が覚醒してしまいました。世界は滅びてしまうのでしょうか。残念ながらこの映画の世界には『コンスタンティン (2005)』はいないようですネ。
この記事はここで終わりです。
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