【感想】NETFLIX映画「ブラック・ミラー バンダースナッチ」動画配信サービスのメリットを活かした最高のゲームブック
本来であればあけましておめでとうございますのタイミングなのですが、あまりに面白かったので先にバンダースナッチの感想を書きたい!
最近配信開始された『バード・ボックス (2018)』など、キャストでもクオリティでもハリウッドのAAAクラスに引けを取らないオリジナル映画やドラマを次々と自前で作っちゃう事でお馴染みNETFLIXですが、実は視聴者が展開を選択するようなインタラクティブ性のある作品も作ってます。ただ、インタラクティブ作品のひとつ『長靴をはいたネコ (2017)』は徹底的に子供向けの作りになっており、正直言って退屈でした。しかしここにきてNETFLIXオリジナル作品を楽しむ年齢層にもめちゃくちゃ刺さるインタラクティブ作品が登場。しかも、みんな大好きブラック・ミラーシリーズの最新作として、です。
概要
2018年暮れに配信されたNETFLIXオリジナル/インタラクティブ映画。一話完結のNETFLIXオリジナルドラマシリーズ『ブラック・ミラー』の最新作となります。原題は『Black Mirror: Bandersnatch』、邦題もそのまま『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』です。ブラック・ミラーシリーズがイギリスの作品なので、これもそうだと思います。舞台もイギリスですし。監督はDavid Slade、ドラマを中心にやってる方みたいで、ブラック・ミラーの中ではかっこいいけどやや地味な印象のあるエピソード『メタルヘッド』を監督されたようです。どおりでメタルヘッドのポスターがバンダースナッチにも出てきます。脚本のCharlie Brookerという人はブラック・ミラーの数多くの脚本を担当してるみたいなので、この作品も徹底的にいつものブラック・ミラーの雰囲気。安心して楽しめます。
肝心のインタラクティブ要素ですが、要所要所で選択肢を選ぶだけのシンプルなもの。それも選択肢はほとんど二択だけです。サウンドノベルや往年のゲームブックをやり慣れた方には少しだけ物足りないかもしれませんが、基本はあくまで映像作品。むしろこのシンプルなスタイルが普段はゲームなどやらない方にも抵抗なく受け入れられるのではと思います。
個人的にすごく関心したのは、やり直しのスタイル。いわゆるマルチエンディングなので、エンディングを迎えた後も他のエンディングを見たくなったり、あの時選択しなかった分岐はどうなるのだろうと気になるのが人情なのですが、エンディング後に重要な選択肢まで戻るか聞いてくれます。しかも、その重要な選択肢までの流れはダイジェストでお送りしてくれる。映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル (2014)』で、既に知っている流れをサクッとこなすあの感じです。同じ映像を繰り返し見せられることなく、フローチャートを埋めていくことが出来ます。サウンドノベルにあるような早送り機能を映像作品でスマートに取り入れていて感動しました。
あらすじ
1984年、ビデオゲームの開発チャンスを得た若いプログラマー。ファンタジー小説に基づくゲーム開発に取り組む中、現実とパラレルリアリティが混同し始める。ブラック・ミラー:バンダースナッチ
1984年、イギリス。アマチュアゲームプログラマーである青年ステファンは、思い入れのあるゲームブック「バンダースナッチ」を元に制作中のゲームの試作品を、ゲーム会社「タッカーソフト」に持ち込みます。売り込みは成功、また憧れのゲームプログラマー・コリンにも出会うことができました。早速開発に専念し、納期までの完成を目指すステファン。しかし、バンダースナッチはその複雑に分岐するシナリオが作者自身の精神をも蝕《むしば》み、妻を殺してしまったといういわくつきの作品。それをゲームで再現しようとするステファンもまたおかしくなり、現実とゲームの区別が曖昧になっていくのでした……
こうしてあらすじだけ書いてみると、作者が自分の作品に飲み込まれて精神をやられてしまうといったような、ホラーやサスペンスにわりとよくあるプロットですね。真っ先に思いつくのはサウンドノベル『街 (1998)』のダンカンこと市川文靖のシナリオ。子供の頃、悪夢の表現がけっこうガチで怖かった思い出があります。ジョニー・デップの映画『シークレットウィンドウ (2004)』も流れは少し違うけど、作品を生み出そうとする時のスランプ、そこから生まれる恐怖という点では近いと思いました。この手の精神的に追い込まれる作者というシチュエーション、大好きです…… [缶詰になってスランプと孤独に戦い、おかしくなっていく作者]というはいちジャンルとして成立するくらい作品がありますよね。推理小説《ミステリ》に“吹雪の山荘”という用語があるように、“作者の缶詰”みたいな…… 美味しそう(笑)。
キャスト
登場人物はとても少ないです。メインは主人公ステファン、そのお父さん、それから天才ゲームプログラマーであるコリン、そしてゲーム会社タッカーソフトの社長さんくらい。主人公ステファンはFionn Whitehead《フィン・ホワイトヘッド》。見たことないなーと思ってたんですが、実は『ダンケルク (2017)』で主人公やってた人でした。ワカラン……
タッカーソフトの一流プログラマーで、主人公に重要なアドバイスもするコリンを演じていたのはWill Poulter《ウィル・ポールター》。ナルニア国物語で騒いでた男の子ですが、立派に成長しました。メイズ・ランナーシリーズにも出てるんですが、近年ではなんと言っても『デトロイト (2017)』で強烈な印象を残す差別主義者の警官の演技が最高でした。バンダースナッチでも、彼のおかげでコリンがとても存在感のあるキャラクターになってます。
映画『デトロイト』で強烈な印象を残したウィル・ポールター。こういうサル顔の役者さん好きなんですよね。デクスターのマイケル・C・ホールとか、『タイムマシン (2002)』のガイ・ピアースとか、『ターミネーター3 (2003)』のニック・スタールとか。
こんな方にオススメ
- ブラック・ミラーが好き
いつものブラック・ミラーです。安心して楽しめる上に、その展開を自分で操作できる!
- ゲームブックが好き
“ゲームブック”という言葉自体が古くなってしまいましたが、数字にジャンプし、持ち物表をチェックし、経験値マスを塗りつぶしていた方であれば当時を思い出して懐かしい気持ちになります。なにしろゲームブックがテーマですから。ドラクエシリーズ、FCではやってないくせにゲームブックで全シリーズやった僕みたいな方いますか?
- サウンドノベルが好き
『弟切草』『かまいたちの夜』『街』この辺のサウンドノベルが好きな方なら間違いないです。選択肢を選ぶの好きでしょ! 僕も大好き!! 『晦《つきこもり》』『学校であった怖い話』『夜光虫』『月面のアヌビス』『ざくろの味』『魔女たちの眠り』『夜想曲』『最終電車』!!! ああサウンドノベルよ永遠なれ!!!!
- 80年台が好き
主人公が持ち歩くのはいわゆるウォークマン的な携帯型のカセットプレーヤーだし、聞くのはEurythmics《ユーリズミックス》。主人公がゲームを作るのに使っているのはカセットテープにプログラムを保存するようなパソコンです。そしてコリンから参考にと渡されるテレビの録画はベータマックス。80年台はリアルタイムで経験できたギリギリの年代なので、懐かしいような新鮮なような不思議な感覚が楽しいです。
- メタいのが好き
『かまいたちの夜』の有名なバッドエンド「ブラウン管の向こうで、スイッチを切ろうと手を伸ばす、もう一人の「ぼく」の姿を……。」 ゾクッと怖くなった後、ゲームをプレイする自分までもが物語の舞台装置として使われた展開に、当時まだ“メタ”なる言葉を知らなくてもニヤニヤが止まらなかったお子様は多いと思います。バンダースナッチもご多分に漏れず、メタに次ぐメタって感じでした。最高。
主人公がゲームを作っているハードはシンクレア ZX Spectrumといって、1982年にイギリスで発売されたホームコンピュータだそうです。性能はともかく、ハードウェアのデザイン、大きさは現在のものよりエレガントで可愛い。なんでこういう小型コンピュータは廃れてしまったのでしょう。ノートPCなんか大きくなる一方ってどういうことなの。
見てない人はダメー!!
感想
どんなエンディングだった!?
いやー、サウンドノベルにハマりまくっていた頃に飛び交った会話がこの2018年に復活するとは。嬉しい限りです。『街』の後、すっかりサウンドノベルは下火でしたもんねー。かまいたちの夜の続編とか、428とか、細々と続いてはいましたが、SFC時代のよくわからない爆発的なブームはついぞ再燃することなく。あ、でも去年は『デトロイト ビカム ヒューマン (2018)』という名作があったし、小説というくくりを取ればプレイヤーが選択肢を選んでいく物語というのは散発的には良い作品が産まれていました。そしてここに来てまさかのNETFLIXですよ。劇場公開レベルの映画や極めてクオリティの高いドラマシリーズを自分で作っちゃうという事がもはや当たり前になってしまったNETFLIXさんですが、こういう実験的な尖った作品でもイニシアチブを取ってくれるようです。
NETFLIXのインタラクティブ作品というと『長靴をはいたネコ』しか見たこと無くて、しかもそれが退屈だったものですから、バンダースナッチもどうせ場当たり的な流れのないいかにも即興で作ったような物語になるんじゃないかと不安だったんですが、見事に期待を裏切られました。いつものブラック・ミラーのクオリティを一つも落とさず、自然に選択肢を盛り込んだ感じ。しかもどれを選んでどのエンディングに行ってもシニカルなブラック・ミラー。一度見ただけでは投げっぱなしになる伏線が、実は他の選択肢への伏線になっていて、違う選択肢で回収されていくのも気持ちがいいです。そして用意されたエンディングがまあメタい。主人公が視聴者である“僕”の存在を認識し始めてる!怖い!面白い!! そこからの選択肢"NETFLIX"は笑いました。もう僕会話しちゃってるじゃん、主人公と(笑)。その後のダメ押しのアクションが見たいんだろ、ほらよーの無茶苦茶な展開も好き。同じ展開からのもう一つのエンディングは、突然カットがかかってブラック・ミラーの撮影スタジオが映るというメタさから一転、主人公役の俳優が自分はステファンだと思い込み、実は俳優の気が触れていたのだという流れはメタな上にどんでん返しの話としても面白くて、関心しきりです。
このNETFLIXルートは本当に楽しかったです。視聴者である僕が作品の中に登場しちゃってるじゃん(笑)。主人公がNETFLIXやストリーミングの意味がわからないのも、未来人に操られていると感じるのも、1984年という年代設定と合わせてうまいなーと思いました。
「カット!」の声と共にカメラは撮影スタジオまで引き、実は見ていたのはブラック・ミラーの撮影そのものだったというメタエンディング。そして主人公ステファンが誰かに操られていたのではなく、主人公の役者であるマイクが自分をステファンだと思い込んでしまっているという、逆転の怖さ。まさにブラック・ミラーでした。
その他のエンディングもどれも良いのですが、特に良かったのは実はバンダースナッチがドキュメンタリーであり、NETFLIXでの配信を目指して撮影中なのだ…… となるエンディング。これまでの話は過去の話でしたとまとめ、NETFLIXが得意とするジャンルであるドキュメンタリーだったという流れにもニヤリ。全体的には前述のかまいたちの夜のメタなバッドエンディングを膨らませ、一本のサウンドノベルにしたような、ブラック・ミラーっぽさとサウンドノベル、アドベンチャーゲームの良さがうまいこと融合していて、めちゃくちゃ面白かったです。他のエンディングが気になって選択肢を選びまくるこの感じは久しぶり。
実はそれ自体がNETFLIXお得意のドキュメンタリーでしたというエンディング。これはトゥルーエンドのひとつかな? NETFLIXで配信することを仄めかしているのが白々しくてウケます。このエンディングも含めて、第四の壁を何枚も破ってくるスタイル、好き。
鳴り物入りの『バード・ボックス』は期待値が上がりすぎで今一つ物足りない感じでしたし、ケビン・スペイシー不在で気の抜けたハウス・オブ・カード、マーベルのドラマシリーズの相次ぐ打ち切りからのディズニー新サービスでのロキ単独ドラマ発表などなど、NETFLIXの先行きが不安になった2018年後半でしたが、バンダースナッチは間違いなくNETFLIXならではの傑作で、久しぶりにNETFLIXに入っていて良かったと心から思えました。まだ当面は楽しめそうです。
この記事はここで終わりです。
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